― スイスで進む「数千年保存」ストレージ研究の最前線 ―
私たちが日常的に使っているSDカードやSSD。
それらの寿命はせいぜい数年から十数年程度だ。
しかし今、スイスでは「数千年単位で保存できる記憶媒体」の研究が進んでいる。
その正体は――DNAだ。
一見するとSFの話に聞こえるかもしれない。だがこれは都市伝説ではなく、実際に研究機関が進めている最先端のストレージ技術である。
スイスで進むDNAストレージ研究
中心となっているのは、スイスの名門工科大学
ETH Zurich(チューリッヒ連邦工科大学)。
この大学では、DNAにデータを書き込み、それをシリカガラスに封入して長期保存する技術の研究が行われている。
単なる理論研究ではない。
実際にデータの保存と読み出しに成功している。
そもそもDNAはどれほど保存できるのか?
よく言われるのがこの数字だ。
- 人間のDNA情報量:約4ペタバイト(PB)
- 人間の脳の記憶容量推定:約2.5PB
1PBは1,000TB。
つまり、DNAは途方もない情報密度を持っている。
理論上は、
DNA 1グラムに約200PB以上のデータを保存可能
とも言われている。
これは現在の半導体メモリとは比較にならない密度だ。
仕組み:データをDNAに変換する方法
DNAは4つの塩基で構成されている。
A(アデニン)
T(チミン)
G(グアニン)
C(シトシン)
デジタルデータは0と1。
つまり2ビットを1塩基に変換できる。
例:
- 00 → A
- 01 → T
- 10 → G
- 11 → C
こうしてデータを塩基配列に変換し、人工的にDNAを合成する。
読み出すときはDNAを解析し、再びデジタルデータに戻す。
原理自体はシンプルだ。
なぜガラスに封入するのか?
DNAは生体分子であり、そのままだと劣化する。
そこでETH Zurichの研究では、DNAをシリカ(ガラス)に封入する技術が開発されている。
これにより:
- 紫外線耐性
- 酸化耐性
- 高温耐性
- 湿度耐性
が大幅に向上する。
理論上は、数千年〜数万年保存できる可能性がある。
これはSSDやHDDでは到底実現できない寿命だ。
では、メモリーカードとして使えるのか?
現時点では答えは「まだ難しい」。
理由は明確だ。
① コストが高すぎる
DNA合成はまだ非常に高価で、1MBあたりでも現実的とは言えない価格帯。
② 書き込みが遅い
半導体のような高速書き込みはできない。
③ 読み取りにも時間がかかる
DNA解析には時間が必要。
④ 書き換えがほぼ不可
基本的に「追記型」に近い。
つまり、スマホやPC用のメモリには向いていない。
では何に使うのか?
現実的な用途は「超長期アーカイブ」だ。
- 国家の歴史資料
- 文化遺産
- 宇宙探査データ
- 人類文明のバックアップ
電源不要で数千年保存できる媒体は、文明レベルで価値を持つ。
なぜ今、DNAストレージなのか?
世界のデータ量は爆発的に増えている。
AIの学習データ、動画、クラウド保存、IoTデータ。
現在のデータセンターは膨大な電力を消費している。
DNAストレージは:
- 超高密度
- 低エネルギー
- 長寿命
という特性を持つ。
もしコストと速度が改善されれば、
データ保存の常識が変わる可能性がある。
人類は「生命の保存方式」を再利用し始めた
DNAは40億年にわたって生命情報を保存してきた媒体だ。
人類は今、それを工学的に利用しようとしている。
これは単なるストレージ技術ではない。
生物進化が生み出した情報保存システムを、
文明が再利用するという構造だ。
未来はどうなる?
近い将来、SDカードがDNAに置き換わる可能性は低い。
しかし――
100年、200年、1000年単位で文明を保存する技術としては、DNAストレージは極めて有望だ。
もしかすると未来では、
「人類の歴史はガラスカプセルの中に保存されている」
そんな時代が来るかもしれない。
そしてその研究は、すでにスイスで進んでいる。
