Appleが新たに発表したM5チップは、単なる処理速度の向上に留まらず、MacやiPad、そしてVision ProにおけるAI(人工知能)性能を劇的に進化させることを主眼に設計された、次世代のシステムオンチップ(SoC)です。
M4チップも非常に高性能でしたが、M5は特にローカルでのAI処理を重視し、ハードウェアアーキテクチャ全体を見直すことで、パフォーマンスの新たなレベルに到達しました。
本記事では、M5チップの主要な進化点、M4チップとの具体的な比較、そしてM5がユーザー体験に与える影響について詳しく解説します。
1. M5チップの最大の進化点:「AIパフォーマンス」への極端な集中
M5チップの進化は、AI処理とそれを支えるメモリ技術に集約されています。
1-1. Neural Engineの性能向上とAI専用GPUコア
M5の最も注目すべき進化は、AI(機械学習)を担うNeural Engineの能力が飛躍的に向上した点です。
- 処理能力の飛躍的向上: M5は、M4と比較して、AI向けGPU演算性能が4倍以上に向上したとされています。これにより、ローカル(デバイス内)で動作する大規模言語モデル(LLM)や、生成AIアプリケーション(画像生成、動画編集のAI機能など)の処理速度が大幅に向上します。
- 各コアにNeural Acceleratorを搭載: M5に搭載された次世代GPUは、各コアに専用の「Neural Accelerator」を備えるという設計が採用されました。これにより、GPUが通常のグラフィックス処理と並行して、AI処理を極めて高効率で行えるようになり、AIワークフローが最大3.5倍の向上を達成したと報じられています。
1-2. CPUとメモリ帯域幅の着実な進化
AI性能が主役である一方で、CPUとメモリも着実に強化されています。
- CPU性能: CPUコアの数自体はM4と同様(例:ベースモデルで10コア構成)ですが、アーキテクチャの強化と省電力化により、マルチスレッド性能は約15%向上し、特にシングルコア性能では競合他社のCPUを凌駕する高いベンチマークスコアを記録しています。
- ユニファイドメモリ帯域幅の増強: M4のベースモデルで120GB/sだったメモリ帯域幅が、M5では153GB/sへと向上しています。帯域幅の拡大は、大容量のAIモデルを扱う際や、複数の高負荷アプリを同時に実行する際のデータ処理速度と効率性を高めるために不可欠です。
1-3. ストレージ速度の劇的な向上
M5チップの高性能コントローラーにより、MacBook Proに搭載されるSSDの速度が大幅に改善しました。
- SSD速度の高速化: M5 MacBook ProのSSDは、M4世代と比較して平均で2.5倍以上の高速化を達成し、読み書き速度ともに6,000MB/s超えを記録しています。これは、巨大なファイルを開く、動画プロジェクトを書き出す、OSのレスポンス速度などに直接影響します。
2. M4チップとの比較:どこでM5が優位に立つのか
M4は、すでに高性能で電力効率に優れたチップでしたが、M5は**「AIと将来性」**という観点で明確なアップグレードを提供します。
| 特徴 | M4チップ(前世代) | M5チップ(現行世代) | M5の優位性 |
| プロセス技術 | 3nm(第一世代または改良版) | 強化された3nmプロセス | さらなる電力効率と性能向上 |
| CPU性能 | 非常に高い | 約12〜15%のマルチスレッド向上 | 日常使用での応答性向上 |
| AI (Neural Engine) | 高性能(M3比で向上) | M4比で4倍超のGPU AI演算性能 | 最大のブレイクスルー。ローカルAI処理の高速化 |
| GPU構造 | 標準的なGPUコア | 各コアにNeural Acceleratorを搭載 | AIとグラフィックスの並行処理効率が大幅アップ |
| メモリ帯域幅 | 例: 120GB/s(ベースモデル) | 例: 153GB/s | 大規模タスク、マルチタスクの安定性 |
| ストレージ速度 | 高速 | 平均2.5倍以上の高速化 | 巨大ファイルの処理、プロのワークフローの短縮 |
3. M5が変えるユーザー体験と今後のロードマップ
M5チップの進化は、MacやiPadの使い心地を次のように変化させます。
3-1. AIアプリケーションの本格的な実用化
M5の高いAI性能は、これまでのクラウドベースのAIではなく、デバイス内で完結するAI機能の本格的な実用化を可能にします。
- リアルタイム処理: 動画編集ソフトでのAIによる背景除去やノイズリダクション、音声翻訳、文書の要約・生成などが、ネットワーク接続を必要とせず、瞬時に実行されます。
- プライバシーの強化: データがデバイス外に出ないため、プライバシーを保護しながら高度なAI機能を利用できます。
3-2. 将来のAIワークロードへの備え
Appleは、今後数年でAI機能がmacOSやiPadOSのあらゆる側面に組み込まれることを見据え、M5を**「AI時代の基礎」**として位置づけています。
- 長期的な陳腐化の回避: AI機能を多用するユーザーにとって、M5はM4よりも長期にわたって高性能を維持できる、将来性の高いチップとなります。
3-3. M5 Ultra/Maxチップの展望
ベースのM5チップの性能向上に加え、プロ・ハイエンドモデル向けのM5 Pro、M5 Max、M5 Ultraチップでは、CPU/GPUコア数、メモリ帯域幅、トランジスタ数などがさらに倍増し、特にM5 Ultraでは、さらなるAI処理能力の飛躍が期待されています。
M5チップは、Apple Siliconが次の進化フェーズに突入したことを示しており、特にAI分野でのパフォーマンス向上は、今後のコンピューティング体験を根本から変える可能性を秘めています。



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